かつて、原子は物質の最小単位と考えられていました。”原子”は英語でアトム(atom)、語源はギリシャ語のアトモスで”分割できないもの”という意味です。
しかし、これまでに見てきたように、原子は原子核と電子から成り、原子核は陽子と中性子から成り…と、さらに小さい構成単位でできていることが分かってきました。

このように、段階的に分子、原子、原子核…といった構成単位が現れることを、自然の階層性といいます。物質を構成する基本要素の粒子が”素粒子”で、素粒子の性質を調べ、それを理論的に体系化していくこと、そして理論的に予言される素粒子を実験で探索していくことが素粒子物理学の目的です。
1932年にチャドウィックが中性子を発見し、それまでに見つかっていたものと合わせて陽子、中性子、電子が素粒子と考えられました。しかしその後、宇宙船による核反応の研究や、シンクロトロンなどの大型加速器による高エネルギー実験によって、どんどん新粒子が見つかっていきます。

自然の階層性を表す例です。私たちの生活に欠かせない水は、水分子の集まりです。水分子は酸素原子1個と水素原子2個からなります。水素原子は水素原子核と電子1個からなり、水素原子核は陽子1個と中性子1個からなる…
スケールの大きさを表す接頭辞もn(ナノ)、p(ピコ)、f(フェムト)と、どんどん小さくなっていきます。では陽子は、中性子は、どんな微細な構造でできているのでしょうか。

物質を構成する素粒子をフェルミ粒子といい、表のような種類があります。クォークの上段は電荷+2/3、下段は電荷-1/3をもち、色荷(カラー)という赤・青・緑で表現される種類があります。クォークが3つ集まり、陽子や中性子といったバリオン(重粒子)をつくり、クォーク1つとその反粒子でメソン(中間子)をつくります。
レプトンの上段は電荷をもたず、下段は電荷-1をもっています。さらにクォークとレプトンはスピンという、”右巻き・左巻き”があるので(クォーク3×2+レプトン1×2)×スピン2=16種類あります。さらに、それぞれに反粒子が存在し、3つの”世代”があるので16×2×3=96種類です。
物質粒子だけでもこれだけあり、しかも第2・第3世代の粒子は第1世代のレプリカのようなもので、高エネルギー現象でわずかに生成されるのみです。第2世代のミュー粒子が発見されたとき、のちにノーベル賞を受賞するイザーク・ラビですら、こう質問したと言われています。「いったい誰が注文したのだ?」

自然界には4つの力(相互作用)があります。この力を伝達するのがゲージ粒子で、フェルミ粒子に対応する種類ではボース粒子と言われます。強い力はグルーオン、電磁気力は光子、弱い力はウィークボソンが媒介します。重力のゲージ粒子は重力子と呼ばれていますがこれは未だ未発見です。
また物質に質量を与えと考えられるヒッグス粒子も、2012年になってようやく発見されました。素粒子物理学の基本的な枠組みである ”標準理論”では、宇宙に存在する物質やエネルギーのうち、わずか5%しか説明できないといいます。その理論体系では「重力とは何か」を説明することもできません。ニュートンの重力の発見から始まり、その理論を発展させたアインシュタインの物理学と量子の世界の統合が、大きな課題です。

138億年前、超高温・超高密度の「ビッグバン」により宇宙が誕生したと言われています。水が氷に変わる(相転移)ときに熱エネルギーを放出するように、高いエネルギーの「真空」が低いエネルギーの「真空」に相転移することで、膨大なエネルギーを放ったと考えられます。ビッグバン以降、そのような相転移が3度起こり、そのたびに力が分離していきました。
素粒子の研究が進むほど、物理学者たちは「自然は、それがいかに複雑に見えても、その究極においては非常に単純である」と考えていきました。エネルギーが低くなることで力が分離したのであれば、高いエネルギーに戻してやれば、再び区別ができなくなるのではないか?ということです。
現在、ワインバーグとサラムによって電磁気力と弱い力を統一することには成功しました。そこに強い力を組み込んだ大統一理論、さらに重力を含めた超大統一理論や超弦理論など、様々な仮説が立てられ研究が進められています。

世界中の神話で、己の尾を咥えて環となった蛇のシンボルが登場します。古代ギリシャの哲学者は、これを”ウロボロス”と呼びました。もともと生命力の象徴として考えられていた蛇が自らの尾を食べることで環状になることで、始まりも終わりもない「完全なもの」としての意味が持たされており、永続性、始原性、無限性、不死などを表すものとして、多くの文明・神話で用いられています。
文明がこれだけ進化しても、人類にとってまだまだ未知の部分は多くあります。素粒子、原子・分子、生命、地球、そして宇宙を包括する様々な研究を通して、新しい知見の獲得とより高度な文化・文明の構築への人類の絶え間ない挑戦は続いていくのです。
ちなみにこの絵は、以前の文化祭で私のクラスの生徒が書いたウロボロスです。古代文明をテーマにしたアトラクションで、出口にこの絵の壁画が現れます(上の絵は私が着色し、シールにしてオマケで配りました)。受け持ったクラスで初めて総合優勝を手にした、想入れ深いものですね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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