前回学んだアルファ崩壊やベータ崩壊のように、原子核が変化する反応を核反応といいます。化学反応は原子の種類が変化しませんが、核反応では全く別の原子ができるところに難しさがあります。
核反応が起こるときには、莫大なエネルギーが発生します。それを発電に利用したものが原子力発電です。核反応と発生するエネルギーについて詳しく見ていきましょう。

ラザフォードは上の式で表されるような核反応を発見しました。これはアルファ線(ヘリウム原子核)が空気中の窒素に当たると、核が破壊されて陽子(水素原子核)が放出されるということです。核反応式は質量数(核子数)と陽子(原子番号)の和が一定に保たれます。化学反応式に慣れていると、少し難しく感じるかもしれませんね。
この実験は蒸気の凝結作用を用いて荷電粒子の飛跡を検出する ”霧箱”という装置で確認されました。しかし、この現象は確率の高いものではなく、霧箱による飛跡観察の結果では、40,000本のアルファ線に対して、陽子の発生を見たものはわずか8本だったそうです。
原子核は正の電荷をもっているため、2つの原子核には斥力がはたらきます。その斥力に打ち勝って核力がはたらく近距離に近づいたときに初めて核反応は起こります。そのため、核反応を起こすには大きな衝突のエネルギーが必要となり、そのための装置が”加速器”です。

私たちの感覚では、バラバラの粒子がひとつにまとまっても、その質量は変わらない気がします。しかし、原子の世界ではそうではありません。原子核の質量は、それを構成する核子の質量の和よりも小さいのです。これを質量欠損といい、この本来あるべき質量分のエネルギーが核子の結合エネルギーとして使われているのです。
アインシュタインの相対性理論によって明らかになった質量とエネルギーの等価性によって、質量mの物体は、静止状態において上の式で表されるようなエネルギーをもつということがわかりました。

エネルギー図で見るとこのようになります。粒子の全質量は陽子と中性子それぞれで、1個当たりの質量に個数を掛け算したものです。それがまとまって原子核を構成するとm0の質量に小さくなります。
質量欠損Δmに光速cの2乗をかけたものが原子核の結合エネルギーです(赤の括弧)。それを核子数Aで割ると1個当たりの結合エネルギーが得られます(青の括弧)。
結合エネルギーは軽い原子核の領域(H→He→Li)で急激に増加し、質量数が56のFe(鉄)のあたりで最大値をとり、緩やかに小さくなります。

図のオレンジの矢印は結合エネルギー、緑は質量によるエネルギーを表しています。この核反応では、反応後の質量の和は減少していて、結合エネルギーは増加していますね。この変化に等しいエネルギーが核エネルギーとして解放されます。

化学反応で発生するエネルギーは数eVであるのに対し、核反応では数MeV以上であることが多いです。たとえばリチウムと陽子の核反応では17.5Mevです。
1molあたりで考えてもう一度J単位に戻すと、1.69×10の12乗Jという膨大なエネルギーが発生することになります。これは石油約40トンを燃やした時のエネルギーといわれますから、そのすごさが伝わると思います。

ドイツのハーンとシュトラスマンは、ウランに中性子を照射したときの反応生成物の中に、ウランのほぼ半分の質量をもつ、バリウムなどの原子核が含まれることを発見しました。
1つの原子核が複数の原子核に分かれる反応を核分裂といい、質量数の大きい原子核は1つの原子核でいるよりも、2つに分かれた方がエネルギー的に安定になります。下の図のように、核分裂後の結合エネルギーは反応前よりも大きくなるためです。

原子力発電ではウランやプルトニウムが燃料として利用されます。遅い中性子(熱中性子)がウランに衝突すると、図のように様々な核分裂が起こります。いずれの場合も200MeV程度のエネルギーが解放され、2~3個の速い中性子(高速中性子)が放出されます。
ウランと反応するのは遅い中性子なので、減速材(水など)でに衝突させて遅くし、ウランと次々に反応するようにしています。これを連鎖反応といい、連鎖反応が持続的に保たれる条件が満たされるとき、原子炉は臨界である。といいます。

現在、世界で稼働している原子炉の多くは、減速材に軽水を用いる軽水炉です。さらにタービンを回す水蒸気の発生の仕方によって沸騰水型と加圧水型に分けられます。
沸騰水型は構造が単純な反面、放射性物質を含む水蒸気がタービンに送られてしまいます。加圧水型は構造は複雑ですが、タービンに放射性物質が入りません。
2011年の東日本震災では福島第一原子力発電所で重大な事故が起こってしまいました。この後、日本の原子力発電所はすべて停止していましたが、運用を再開しているところが少しずつ増えています。重大事故に対する厳重・多重の安全対策が必要不可欠です。また、核分裂によってできた原子核には半減期が数百万年というものもあります。放射性廃棄物の処理は原子力発電にとって重要な課題です。

核子1個当たりの結合エネルギーは質量数56のFeで最大値をとります。したがって軽い原子核どうしが反応し、より質量数の大きな原子核になるとき、結合エネルギーが増加し、その差分のエネルギーが解放されます。これが核融合です。
重水素と三重水素からヘリウムと中性子ができる反応では、14.1MeVのエネルギーが、太陽で起こっている反応では27MeVのエネルギーが解放されます。
核融合では資源が無尽蔵に存在し、放出される放射性廃棄物の半減期が短いため、将来のエネルギー源の1つとして研究が進められています。しかし、核燃料を数億度の超高温で密度の高い状態に閉じ込める必要があるなど、物理的に困難な課題が多いため、核融合を連鎖的に発生さることには成功していません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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